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Selfishly

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1、『視線』 エドワードver


1、『視線』エドワードver


H18,2/12 13:30

暖かな日差しを浴びながら、
のんびりと寝そべったエドワードが
アルと他愛無い話に興じていた。

東方司令部の中庭では、大佐に面会の為に
久々に東方にやってきた二人の姿があった。
少々 約束の時刻より早く着いた二人は、
大佐の仕事が一段落するまでの時間を
天気が良いということで、
中庭で 待つことにした。

「でさ、あの研究書にあった構築式なんだけど
 あれは無茶だと思わないか~。」
「うん、僕も見て そう思ったよ。
 ちょっと、詰め込みすぎだよね。」
「詰め込み過ぎっていうか、都合よすぎ。
 あんなに、何でも1つの錬成陣で済まそうってのも
 考えが甘いよなー。」

子供二人が話すには、高度すぎる会話が先ほどから
交わされていた。
この二人は、ただの子供ではない。
一人は 最年少で国家錬金術師の資格を得た少年、
エドワード・エルリック。
自称 天才と言って憚らないが、人もそれを否定はしない。
そして、常に兄の横に控えている鎧姿の弟は
兄に劣らぬ聡明さを持ち、異様な外見とは正反対の
温厚な礼儀正しい少年で、名をアルフォンス・エルリックと言う。

話をしていた兄が急に起き出して、周辺をキョロキョロと見回す。
「どうしたのさ、兄さん。」
そんな兄に不思議そうに声をかける。

「・・・いや、何か視線を感じたんだけど・・・。」
周りを見回すと、就業中という事もあり、
中庭でのんびりしている人影など、自分達しかいない。
おかしいな~と言う風に、首を傾げながらも
立ち上がり、着いていた埃を払うように服をたたく。

「んじゃ、そろそろ行きますか。」
奇妙な視線の事等、忘れたように切り替えて
そろそろ時間だとアルフォンスを促す。

「うん、そうだね。
 時間に遅れるといけないものね。」

「おう、遅れると あの大佐の事だ。
 面会をすっ飛ばされる可能性もあるからな。」
全く、ケチなんだから~とぼやく兄に、
時間に遅れる兄さんが悪いんだよと笑いながらたしなめる弟の
二人の姿が中庭から消えていく。
それと同時に、エドワードが感じていた奇妙な視線も
逸らされていった。

二人にとっては、視線を浴びる事等 たいした事はない。
子供と 大きな鎧姿の二人連れは、どこに行っても どこに居ても
常に注目の視線を集めてしまう。
好奇心の視線から、嫌悪、非難、嫉妬に羨望、
そして まれに好意的な。
悲喜こもごもな視線の中を 二人は常に進んできた。
いちいち、気にしていたら とても前には進んでいけない。
そして、エドワードにとっては、
視線を感じて気に病む 心優しい弟の為にも
毅然としていなければならない。

そう言う意味では、ここ東方司令部では
余り視線を気にする事もなく過ごせる。
この奇妙な二人組みに慣れている ここでは、
わずらわしい視線もなく、比較的 好意的な視線が多いからかも知れない。

「戻りました~。」
大雑把な挨拶をしながら、扉を開けて入っていくエドワードに続いて
「お邪魔します。」と礼儀正しく会釈してアルフォンスも続く。

「おう、大将。お帰り。」
愛想良く挨拶を返してくれるハボックに
エドワードも気軽に声をかける。
「なぁ、大佐 もう時間空いたかな?」

「ああ、多分 大丈夫だぜ。
 さっき、中尉が書類運びだしてたからな。」
エドワードの礼儀に反する言葉使いも、
さして気にしてなさそうなハボックの態度が
この少年達を気にいっている事を物語っている。

「んじゃー、行ってきますか。」
とても、今から 上司に合う態度ではないが、
ハボックも 気にせず、
「おう、頑張れよ。」と一言声をかけて流している。

エドワードがチラリとアルフォンスに目をやると、
何やら 楽しそうにフュリーと話している姿が目に入る。
弟に 付いて来る姿勢がない事を感じ、
一人で大佐に合うのかと思うと、
ちょっと気分が塞いでしまうが、仕方が無いとばかりに
扉をたたく。

「エドワード・エルリック、入りま~す。」
扉をたたくと同時に開けていれば、
あまりノックをした意味もないだろうが、
その中の住人に それで咎められた事もない。

「やぁ、久しぶりだね。」
言葉上では、友好的にも聞こえる声音で挨拶をしてくるが、
そこが曲者なのだ、この男は。
そう内心で思った事はおくびにも出さずに、
普段を装って返事を返す。

「ああ、あんたも相変わらず仕事を溜め込んでいるみたいだな。」
暗に、待たされた事を言外に含める。

「なに 溜め込んではいないさ。
 ただ、私が忙しすぎる身なだけでね。
 アポイントも無しな急な面会を取れる時間が少ないと言うだけだ。」
エドワードの嫌味も、あっさりと皮肉で返してくる。

「・・・それは、大変 申し訳ございませんでした。」
ぶっすりとした表情で、
全く心の篭っていない謝罪を口に乗せる。

「わかっているなら、結構だ。
 鋼の、こちらへ。」

大佐の呼びかけで、エドワードが執務机に近づく。
数歩手前で、立ち止まって大佐を見る。

実は、エドワードは この時が1番苦手であった。
話し出してしまえば、そんな事も消えるのだが、
こうして 何もせずに大佐の視界で立たされる この時は、
何故だか 緊張を強いられる。
大佐は 報告の前に こうして、エドワードを自分の前に立たせて
しばらく見つめるのだ。
疚しい事が無いとは言えない、自分の行状を見透かされているような
そんな無遠慮な視線は、いつも エドワードをひどく狼狽させる。
もちろん、そんな事は態度にも表情にも出さないが・・・。
そして、今日はさらに その視線が妙な既視感を生み出している。

「で、今回は 長かったようだが?」
届いていた報告書に視線を落として、大佐が聞いてくる。
自分から視線が 逸れた事に、内心 ほっとしながら
聞かれた事に答えて行く。

大佐の視線は苦手だ。
別に非難や否定での嫌悪を感じると言うわけではない。
それどころか、どちらかと言うと好意的な視線だと言ってもおかしくない。
なのに、なんとなく居心地が悪くなるのは
自分の一挙一動を見逃すまいと見つめる視線に、
なんだか 絡め取られる気がするからかも知れない。

ハボックや、軍のメンバーから受ける好意の視線とも微妙に違う。
好意だけと言うには、少々 痛いものを感じるのだ。
『この感じ、どこかで・・・。』
話しながら、ぼんやりと そんな事を思っていると、

「わかった。 では、こちらの件は まとめて報告しておく。」
そう言いながら報告書を閉じる。
これは、報告が終了の印。
それに、はっと我に返ったエドワードは、

「んじゃ、そう言う事で。」と挨拶も そこそこに
その場を去ろうとした。

「鋼の。
 今後の予定は?」
まだ、退出には早いとばかりに続けられる質問に
翻そうとした足を止める。

「しばらくは、こっちに居て
 情報を集めるつもりだ。
 その後の事は、情報次第かな。」

何かない?と目で伺ってみると
肩をすくめて返してくる。
「君が こちらに居る間に、集めれるようにしよう。」

この男が そう返してくるという事は当てが無きにしも有らずという事だ。
「まじ!
 さっすが、大佐~。」
今までの無愛想が嘘のように、満面の笑顔で机に乗り出していく。
「んで、どんな情報なわけ?」
興味深々丸出しの自分の態度に クスッと笑われる。
小馬鹿にされたような態度は癪に障るが、
背に腹は変えれない。

「なぁ、どんな話しなわけ?」
強請る様に聞いてみれば、
大佐が ソファーを指し示し
「まぁ、長くなるから お茶でも飲んで話そう。」
と自分も執務机から立ち上がる。
内線でお茶の準備を頼んでいる時間も
待てないとばかりにエドワードが 大佐の後を付いて話しかける。

「お茶なんか、別にいいよ。
 それよか、どんな情報なんだよ。」
優雅に腰掛けて座る男に、じらされている様な気がして
話を急かしてみる。

「まぁ、落ち着いて座ったら どうかね。
 私にも一息いれる時間をくれてもいいだろ?」

「あんた、仕事中じゃなかったわけ?」
不承不承 言われるとうり 座りながら、
そう言ってやる。

「ああ、だから 予定外は休憩中に入れてるわけだ。」
 
さらっと言われた言葉に、エドワードは 大佐が自分達の予定に
合わしてくれた事を知る。

「・・・ごめん。」
少々自分の行動を省みて、恥ずかしくなる。

「なに、構わないさ。
 君が戻ってくるのは 滅多にある事でもないし。」
そう、さりげなく気遣った言葉を告げられていると
お茶を持ったハークアイ中尉が入ってくる。

「こんにちは、エドワード君。
 元気にしていたようね。」
お茶と、美味しそうなケーキを乗せた皿を手渡しながら
優しい目で見つめてくる彼女に、
エドワードも嬉しそうに挨拶を返す。

「うん、中尉も元気そうで良かったよ。」
ありがとうと受け取りながら、
出されたケーキに目を輝かす。

「うわー、すっげ上手そう。」

「気にいってくれると嬉しいわ。
 大佐お薦めの店だから、味は保障つきよ。」

「大佐の?」

と言う事は、このケーキは 大佐が用意させたのだろうか?
そう言えば、報告の間 中尉が戻ってきた様子も無かったし・・・。

チラリと相手を見てみるが、
関心なく自分に渡されたお茶を飲んでいる。
お礼を伝えてから食べるべきなのだろうかと
戸惑っていると、

「どうしたんだね?
 ケーキは嫌いじゃなかっただろう。」
と食べないエドワードを不思議そうに見つめる。

「うん・・・、
 じゃあ 頂きます。」

「どうぞ。」
そんなエドワードの態度に、優しい微笑で返してくる。
こういう時の大佐も、微妙に苦手なんだよな~と
思いながら 一口食べてみると、
すっかり そんな気分も消え去った。

「上手い!
 これ、めちゃくちゃ美味しい。」

驚いた後に満面の笑顔を感動を伝えてくるエドワードに
大佐が嬉しそうにしている。

「そうか、それは良かった。
 良ければ、沢山あるから お替りをするといい。」

手渡された皿以外に、箱ごと置かれたケーキは
どうやら、エドワードに持たせるつもりで買ってきたようだ。
その後は、美味しいケーキのおかげで
すっかりと緊張を溶いたエドワードが
大佐に勧められるまま、旅での事を話していく。
大佐は話し相手としては、大変 聞き上手で優秀だ。
エドワードも、苦手だと思っていたことも忘れて
嬉しそうに話を聞く大佐と旅行話に花を咲かせた。

そんな風に過ごす時間はあっという間に過ぎていく。
ふと時計を見ると、ここに入ってから結構な時間がたっていた。

「やべ、アルを待たせてたんだ。」
あたふたと立ち上がるエドワードの
無作法を咎めるでなく、
ロイも そろそろ仕事に戻ろうと立ち上がる。

「んじゃ、情報が入ったら頼むな。

 ・・・・、ケーキご馳走さん。上手かった。」
しっかりと手にはケーキの箱を持たされて
エドワードは 部屋を出る為に 扉に向かう。

そして、ふと視線を感じて 後ろを振り返る。
そこには、すでに仕事に戻って書類に目を落としている大佐の姿しかない。
「?」
戸惑ったまま立ち止まるエドワードに気づいたように
大佐が顔を上げる。

「どうしたんだね?
 まだ何か言い忘れた事でも?」
穏やかにかけられた言葉に、今 浮かんだ疑問は
気のせいかと思い直し、
「んじゃ!」と元気よく扉を開けて出て行く。

パタリと閉められた扉の中では、
エドワードが去った後を、じっと見詰めている大佐の視線が
自分を追いかけている事に 気づかぬまま。

「遅かったね、兄さん。」

「あぁ・・・、ごめん 待たせた。」

「どうかした?」
妙な顔をしているのだろう自分に、アルフォンスが不思議そうに聞いてくる。

「いや・・・、別に。」
そう答えながら、司令部を去るエドワードの胸中には
さっき浮かんでいる疑問が消えない。

『さっき感じた視線って、何か どこかでなかったか・・・?』
自分達に向けられるのではなく、
自分にだけ向けられている視線。

気がついてみれば、それは他ではなく
ここを訪れた時に感じる違和感。
そして、さっき・・・。

『まさかな・・・。』
その視線の相手が大佐なわけがない。
そんな視線を向けられる理由がない。

司令部を出て門に向かう途中、
エドワードが、はっと建物の1箇所を振り返る。

「どうしたの、兄さん?」
同様にエドワードの目線の先を追うアルフォンス。

「あっ大佐だ~、お見送りかな。」と
無邪気に手を振るアルフォンスを見ながら、
エドワードは 門に向かって足早に歩いていく。

「あっ、待ってよ兄さん!」
焦って付いてくるアルフォンスの足音を聞きながら、
エドワードは 自分の考え違いであってくれれば良かったのにと思う。

『なんで気づかなかったんだ。
 そう言えば、あの奇妙な視線は あいつの前にたった時に
 あいつが俺を見るときの視線と同じ感じだ。』

大佐の部屋からは、中庭も良く見える。
が、エドワードには 何故 自分が大佐に あんな視線を
向けられるのかがわからない。
自分だけに向けられるあの視線は、
痛みを伴う程の熱が宿っているのではないかと思う。
全てを見透かすような、視線が自分を雁字搦めにしていく感覚は
エドワードには知りえなかった感覚だ。

我知らず、身をフルっと振るわせる。
気づかなければ良かったと思う、
気づいたら 掴まってしまうような不安を抱えながら・・・。





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